有料版: 「商用利用」の難しさと曖昧さ(Picrew利用規約の変更を例として)
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Picrewというユーザー投稿型のモンタージュ系画像メーカーがある。
強い女メーカー1の作者であるagt87_2氏が、商用利用を中止するよう法的手段の示唆を含めて警告したこととそれに関する炎上(強い女メーカーの件)は記憶に新しい。
さて、最近(2019年2月22日)、Picrewの利用規約に変更が加えられた3。結論から言えば、この変更は、今回の炎上にのみフィットした非常にアドホックなものである。不必要なほどに詳細でありながら、かつ必要な部分は簡略なままというちぐはぐな変更となっている。
ここからは、必要に応じて解説を加えながら「商用利用」の難しさと曖昧さについて触れていく。
Picrewの利用規約4に追加されたのは「商用利用の定義について」という項目である。
個人、法人にかかわらず、直接的・間接的に金銭等の利益を得る目的でのご利用は、商用利用となります。
まずは「商用利用」の素朴な定義である。この定義で足りるなら、強い女メーカーの件が起こることはなかっただろう。
この定義は非常に広く、曖昧である。そもそも「利益を得る目的でのご利用」とはなんなのか? 現代において、何一つ利益を生まない活動とはどのようなものだろうか。自室で行われる自慰行為でさえ値段を付けて販売されうる中で、Picrewはどんな利用方法を想定しているのだろう。
Picrewの示す「遊び方」を含め、現代において「非商用利用に限る」旨を含んだライセンスのほとんどは曖昧で、その運用はお気持ちに任されていることが多い。
さて、Picrewの言うように「間接的に」利益を得る行為さえ禁止されるとすれば、本来ならほとんどの活動が否定されるはずだ。しかし、現実はそうなってはいない。そのような運用では、Picrewのサービス自体に意味がなくなるからだ。
Picrew自身も何が「商用利用」に当たるかを検討しかねていることは、以下の但書に現れている。
商用のご利用例
/* 省略 */
・アフィリエイトを設置している、サイト、アプリ等でのご利用
*1 レンタルブログなどサービス運営者がアフィリエイト等を設置している場合で、Picrewのユーザーに金銭等の利益が発生しない場合は、該当しません。
この条件については、Picrewもかなり悩んだであろう。強い女メーカーの件に迎合しなければならないとすれば、「(コンテンツを編集する主体が)アフィリエイトを設置したサイト」を(コンテンツを編集する主体にとっての)商用利用としつつ、「(サーバーを運営する主体が)アフィリエイトを設置したサイト」を(コンテンツを編集する主体にとっての)非商用利用としなければならないからだ。
しかし、サーバー運営者がPicrewにて生成された画像を設置されたサイトで利益を得ることは、「直接的・間接的に金銭等の利益を得る目的でのご利用」ではなかったか? それは「利益を得る目的」ではない? では、彼らはなんのために無意味な広告を設置してサイトの景観を汚しているのだろう。
この但書は強い女メーカーの件にのみ適応したものであり、いくらでも抜け道が考えられる誤った規約である。例えば、サーバーを運営する主体が、コンテンツを編集する主体を騙って画像のアップロードを繰り返したととしたら?
間違ったことを明記するのは、明記しないことよりも悪い。
以下のご利用例は一例であり、各画像メーカーの説明文に、利用範囲に関する記載がある場合はそちらが優先されます。
ここには、Picrewの隠しきれない責任逃れの姿勢が現れている。「商用利用」の中途半端な外延的定義を与えたふりをして、その曖昧さに対する責任を画像メーカーの作者に転嫁しているのだ。「商用利用」の定義は難しいが、状況を限定した具体例を考えるのは比較的簡単である。しかし、それはやはり定義とはいえない。
もう一度言う。間違ったことを明記するのは、明記しないことよりも悪い。
さらに、この規約にはもう一つの問題が残っている。たとえ利用規約に厳密な「商用利用」の定義を与えたとしても、各画像メーカーの定義でいくらでも撹乱できてしまうということだ。
魅力的な画像メーカーが、商用利用の枠組みに引きずり込もうという悪意をもって設置されたトラップとしたら? 次の使用中止を求める警告が向けられるのを恐れて、我々はPicrewの使用をやめるほかないだろう。
我々は「商用利用」の曖昧さを誰にも押し付けてはならないし、扱いきれないなら捨てるほかない。
以下の場合は、商用が許可されていない場合であってもご利用頂けます。
・引用の要件を満たすなど、法律に従って適正にご利用頂く場合
ここに至っては、そもそも記載の必要がない。これは、強い女メーカーの件で「適切な引用は違法ではない!」という声が多くあったためだろう。しかしながら、Picrewが法律によって認められた行為を許可あるいは禁止する権限はない。間接的ではあるが、強い女メーカーの件に追従した姿勢がよく現れている。
ここまで説明した通り、Picrewが行った利用規約の変更は全くの無意味だった。強い女メーカーの件をモデルとして、次の被害が現れたらまた規約を不必要に詳記しようというのだろう。
彼らは強い女メーカーの件を短期的に収束させようとするだけではなく、厳密な「商用利用」について考え、適切な規約を示さねばならない。さもなくば、さらなるお気持ち運用からの大事故を生むことになるだろう。
ルールはお気持ちから生まれることもあるが、お気持ちそのものではない。「いっぱい使ってもらって気持ちよくなりたい!」「でも、自分のふんどしで相撲を取られたくない!」という素直な気持ちに寄り添い続けても、誰も幸せにはならない。
ただし、適切な「商用利用」に向き合えるほど人間は賢くないし、現代人にはそうするだけの余裕ももう残っていない。これは非常に残念なことだ。